M&A2026年2月16日

M&Aの進め方|基本合意からクロージングまでの全体像

はじめに

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の成長戦略として最も強力な手段の一つです。しかし、初めてのM&Aでは「何をどの順番で進めればいいのか」がわからず、不安を感じる経営者が多いでしょう。

M&Aには明確なプロセスがあり、各フェーズで必要な判断と実務があります。本記事では、M&Aの全体像を俯瞰し、各フェーズの進め方を解説します。

M&Aの全体プロセス

全体フロー

フェーズ 期間 主な活動
1. 戦略策定 1〜3ヶ月 M&Aの目的・ターゲット像の明確化
2. ソーシング 2〜6ヶ月 候補先の探索・アプローチ
3. 初期検討 1〜2ヶ月 NDA締結、初期的な情報交換
4. 基本合意(LOI) 2〜4週間 基本条件の合意、独占交渉権の付与
5. デューデリジェンス 1〜2ヶ月 対象企業の詳細調査
6. 最終契約 2〜4週間 株式譲渡契約書(SPA)の締結
7. クロージング 1日〜数週間 株式の移転、対価の支払い
8. PMI 6ヶ月〜2年 買収後の統合

全体で6ヶ月〜1年半が目安です。

フェーズ1:戦略策定

M&Aの目的を明確にする

M&Aは手段であり、目的ではありません。**「なぜM&Aなのか」**を明確にすることがスタートです。

目的 具体例
事業拡大 新市場への参入、サービスラインの拡充
技術獲得 自社開発より早く技術を獲得
人材獲得 エンジニアチームの獲得(アクハイヤー)
規模の経済 仕入コストの削減、重複業務の統合
競合排除 競合を買収して市場支配力を強化
事業承継 後継者不在企業の受け皿

ターゲット像の策定

検討項目 内容
業種・事業領域 どの業種・領域の企業を対象とするか
売上規模 ターゲットの売上高の範囲
地域 国内/海外、エリアの限定
買収価格の上限 投資可能な金額の上限
シナジーの方向性 売上シナジー or コストシナジー

フェーズ2:ソーシング

候補先の探し方

方法 特徴
M&A仲介会社 売り案件の情報を持っている。手数料が発生
FA(ファイナンシャルアドバイザー) 買い手側のアドバイザーとして候補先を探索
金融機関 取引先ネットワークからの紹介
M&Aマッチングプラットフォーム TRANBI、M&Aクラウド等
直接アプローチ 自社で候補先にコンタクト
業界ネットワーク 業界団体、展示会等での接点

ロングリスト → ショートリスト

ステップ 内容 候補数目安
ロングリスト 条件に合う候補先を幅広くリストアップ 20〜50社
スクリーニング 公開情報で絞り込み 10〜20社
ショートリスト 優先的にアプローチする候補先 3〜5社

フェーズ3:初期検討

NDA(秘密保持契約)の締結

候補先と具体的な情報交換を始める前に、**NDA(Non-Disclosure Agreement)**を締結します。

IM(インフォメーション・メモランダム)の分析

売り手側から提供される**IM(企業概要書)**を分析し、初期的な投資判断を行います。

IMに含まれる情報 内容
会社概要 沿革、組織体制、従業員数
事業内容 製品・サービス、主要顧客、市場環境
財務情報 過去3〜5年の決算概要
売却理由 なぜ売却するのか
希望条件 希望売却価格、スケジュール

初期的なバリュエーション

IMの情報をもとに、概算のバリュエーションを行います。この段階では精緻な分析は不要で、「この価格帯であれば検討に値するか」の判断材料です。

フェーズ4:基本合意(LOI)

LOI(Letter of Intent)とは

LOI(基本合意書)は、M&Aの基本条件について合意したことを示す文書です。意向表明書(Letter of Intent)とも呼ばれます。

LOIの主要条項

条項 内容 法的拘束力
取引の概要 株式譲渡/事業譲渡/合併等のスキーム なし
買収価格(または算定方式) 想定価格またはバリュエーションの方法 なし
デューデリジェンスの実施 DDの範囲と期間 なし
スケジュール クロージングまでの想定日程 なし
独占交渉権 一定期間、他社との交渉を制限 あり
秘密保持 情報の秘密保持義務 あり
費用負担 各自の費用は各自負担 あり

重要: LOIは原則として法的拘束力を持ちませんが、独占交渉権と秘密保持については法的拘束力があります。

LOI交渉のポイント

ポイント 内容
独占交渉期間 2〜3ヶ月が一般的。長すぎる設定は避ける
価格の表現 確定額ではなく「○億円を目安にDDの結果を踏まえて協議」等
ブレイクアップフィー LOI破棄時の違約金(設定しないことが多い)

フェーズ5:デューデリジェンス

DDの詳細は別記事で解説しています。

DDの種類 主な調査項目
財務DD 正常収益力、簿外債務、運転資本
法務DD 契約、訴訟、知的財産、労務リスク
ビジネスDD 市場環境、競争力、シナジー
税務DD 税務リスク、繰越欠損金

デューデリジェンスの進め方

フェーズ6:最終契約

SPA(株式譲渡契約書)の主要条項

条項 内容
譲渡対象 譲渡する株式の数・種類
譲渡価格 確定した買収価格
価格調整条項 クロージング時の運転資本等に基づく調整
表明保証 売り手が保証する事項(財務の正確性、訴訟の不存在等)
補償条項 表明保証違反時の損害賠償の取り決め
クロージング条件 契約から実行までの前提条件
競業避止 売り手が一定期間、同業を行わない義務
誓約事項 クロージングまでの間に守るべき事項

表明保証の重要性

表明保証は、DDで発見できなかったリスクに対する保険的な役割を果たします。

一般的な表明保証事項 内容
財務諸表の正確性 提供した財務情報が正確であること
簿外債務の不存在 開示されていない債務がないこと
訴訟の不存在 係争中の訴訟がないこと
重要契約の有効性 主要な契約が有効に存続していること
法令遵守 法令に違反していないこと
知的財産の帰属 知的財産権が会社に帰属していること

フェーズ7:クロージング

クロージングの手続き

手続き 内容
前提条件の充足確認 クロージング条件がすべて満たされているか
必要書類の交付 株式譲渡承認の議事録、株券等
対価の支払い 買収代金の振込
届出・登記 役員変更登記、許認可の変更届等
Day 1対応 従業員・取引先への発表

クロージング条件の例

条件 内容
規制当局の承認 独禁法の届出、業法の許認可
キーパーソンの残留合意 重要人物の雇用契約の締結
重大な悪化の不存在 クロージングまでに重大な事業悪化がないこと
表明保証の正確性 契約時の表明保証が引き続き正確であること

フェーズ8:PMI

買収後の統合(PMI)は、M&Aの成否を決める最も重要なフェーズです。

統合領域 Day 1 〜3ヶ月 〜1年
経営体制 新経営陣の就任 ガバナンス体制の確立 定着
組織・人事 組織図の確定 人事制度の統合検討 統合実施
業務プロセス 業務の棚卸 統合計画の策定 業務統合
システム 現状把握 統合計画の策定 システム統合
文化 コミュニケーション開始 相互理解の促進 文化の融合

PMI(買収後統合)の進め方

M&Aでよくある失敗

1. 戦略なきM&A

「良い案件があったから」と戦略なく買収し、シナジーが生まれないケース。「なぜこの会社を買うのか」の明確な理由が必要です。

2. 高値掴み

競合との入札で価格が吊り上がり、適正価格を大幅に超えて買収してしまうケース。撤退ラインを事前に決めておくことが重要です。

3. DDの不足

時間やコストを惜しんでDDを省略し、買収後に重大なリスクが発覚するケース。

4. PMIの軽視

「買収すれば自然とシナジーが生まれる」と考え、PMIに十分なリソースを投入しないケース。M&Aの成功はPMIで決まると言っても過言ではありません。

5. キーパーソンの流出

買収後にキーパーソンが退職し、事業価値が毀損するケース。リテンション施策を事前に設計しておく必要があります。

まとめ

フェーズ 期間 最重要ポイント
戦略策定 1〜3ヶ月 M&Aの目的を明確にする
ソーシング 2〜6ヶ月 幅広く候補を探し、絞り込む
LOI 2〜4週間 独占交渉権の期間に注意
DD 1〜2ヶ月 十分な期間と範囲を確保
最終契約 2〜4週間 表明保証と補償条項を慎重に
PMI 6ヶ月〜2年 M&Aの成功はPMIで決まる

M&Aは事前の計画と専門家チームの組成が成功の鍵です。初めてのM&Aであれば、経験豊富なアドバイザーと一緒に進めることを強くお勧めします。

NextFin会計事務所では、M&Aの戦略策定からDD、PMIまで一貫して支援しています。「M&Aを検討しているがどう進めればいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。

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タグ:M&ALOI基本合意クロージング企業買収

この記事を書いた人

NextFin会計事務所 税理士

税理士。スタートアップ・成長企業の財務戦略、M&A内製化、資金調達を専門とする。大手コンサルティングファームでのM&Aアドバイザリー経験を経て、NextFin会計事務所を設立。

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