はじめに
近年、中堅・成長企業においてもM&Aを成長戦略の柱に据える企業が増えています。しかし、M&Aの実務をすべて外部のアドバイザリーファームに委託すると、高額な手数料がかかり、社内にノウハウも蓄積されません。
そこで注目されているのが**「M&A内製化」**です。本記事では、M&A内製化の意味、外部委託との違い、そして導入のメリットと進め方を解説します。
M&A内製化とは
M&A内製化とは、企業買収や事業統合(PMI)のプロセスを、外部に丸投げせず社内チームが主体的に実行できる体制を構築することです。
具体的には以下の機能を社内に持つことを指します:
- M&A戦略の立案 — どの領域で、どのような企業を買収するかの戦略策定
- ソーシング(案件発掘) — 自社で買収候補先を見つけ、アプローチする
- デューデリジェンス — 財務・法務・ビジネスの調査を社内で実施
- バリュエーション — 企業価値評価を自社で行う
- 交渉・契約 — 条件交渉とクロージングの主導
- PMI(統合) — 買収後の経営統合を社内で推進
もちろん、すべてを100%内製化する必要はありません。法務の一部やバリュエーションの検証は外部専門家に依頼しつつ、コアの意思決定と実行は社内で行うというハイブリッド型が現実的です。
外部委託と内製化の違い
| 項目 | 外部委託(FAに一任) | 内製化(社内チーム主導) |
|---|---|---|
| コスト | 高い(成功報酬2〜5%) | 低い(人件費+外部の部分委託) |
| スピード | FAのスケジュール次第 | 自社のペースで進められる |
| ノウハウ蓄積 | 社内に残らない | 案件を重ねるほど蓄積される |
| 案件の質 | FAが持ってくる案件に依存 | 自社の戦略に合った案件を能動的に発掘 |
| 継続性 | 毎回ゼロからFA選定 | 2件目以降の効率が大幅に上がる |
| 文化理解 | 外部視点のみ | 自社の文化・戦略を深く理解した判断 |
コストの差は想像以上に大きい
例えば、10億円のM&A案件を外部FAに依頼した場合、成功報酬は2,000万〜5,000万円になります。年間2〜3件のM&Aを実行する企業なら、毎年数千万円〜1億円以上のアドバイザリー費用が発生します。
一方、M&A内製チームを3名体制で運営するコストは、人件費を含めても年間2,000万〜3,000万円程度。2件目以降は追加コストがほとんどかからないため、案件数が増えるほど内製化の経済合理性が高まります。
M&A内製化の5つのメリット
1. コスト削減
上述の通り、外部FAへの成功報酬が不要になります。特に複数案件を継続的に実行する企業にとっては、大幅なコスト削減が実現できます。
2. 戦略の一貫性
M&A戦略を社内で立案・実行するため、全社戦略との整合性が保たれます。「なぜこの会社を買うのか」「買収後にどうシナジーを出すのか」を深く理解したチームが主導することで、的外れな案件を追うリスクが減ります。
3. スピードの向上
自社チームが常にM&A案件を探し、評価している状態を作ることで、良い案件が出てきた時の意思決定スピードが格段に上がります。外部FAに依頼してからキックオフまでの時間もなくなります。
4. ノウハウの蓄積
案件を重ねるたびに、バリュエーションの精度、交渉力、PMIのスキルが向上します。組織としてのM&A実行能力が蓄積され、成功率が上がっていきます。
5. PMIの成功率向上
M&Aの成否は買収後の統合(PMI)で決まると言われています。内製チームが買収前から関わっていれば、PMIの設計を買収交渉段階から組み込むことができ、統合の成功率が大幅に上がります。
M&A内製化の進め方
ステップ1:M&A戦略の策定
まず「なぜM&Aをするのか」「どの領域で買収するのか」を明確にします。
- 全社戦略におけるM&Aの位置づけを定義
- ターゲットとなる業種・規模・地域を特定
- 3年間のM&Aロードマップを策定
ステップ2:社内チームの組成
M&Aの中核となるチームを作ります。最初は少人数でOKです。
- リーダー(1名) — M&A戦略の統括、経営層との連携
- 実務担当(1〜2名) — ソーシング、DD、バリュエーション
- PMI担当(1名) — 買収後の統合プランニングと実行
経験者がいなくても、後述する外部専門家の伴走支援を受けながら育成することが可能です。
ステップ3:プロセス・ツールの整備
M&Aの実務フローとツールを整備します。
- 案件評価のスコアリングシート
- バリュエーションモデルのテンプレート
- DDチェックリスト
- PMI計画のフレームワーク
ステップ4:案件の実行と学習
実際の案件を通じてチームのスキルを磨きます。
- 最初の1〜2件は外部専門家と一緒に実行
- 案件ごとに振り返り(レッスンズ・ラーンド)を実施
- プロセスの改善を継続的に行う
ステップ5:自走体制の確立
3件目以降は、社内チームが主体的に案件を推進できる状態を目指します。外部の支援は、法務DDやバリュエーションの第三者検証など、部分的な活用に移行します。
内製化に向いている企業
以下の条件に当てはまる企業は、M&A内製化の効果が大きいです:
- 年間1件以上のM&Aを計画している
- 中期経営計画にM&Aが含まれている
- 過去にM&Aを外部委託で経験し、コストや品質に課題を感じている
- 買収後のPMIに苦戦した経験がある
- 成長戦略の柱としてM&Aを位置づけたい
よくある質問
M&A経験者がいなくても内製化できますか?
はい、できます。外部の専門家による伴走支援を受けながら、実際の案件を通じてスキルを身につけていくのが現実的なアプローチです。最初から完璧を求める必要はありません。
内製化にはどのくらいの期間がかかりますか?
チーム組成から最初の案件クロージングまで、6ヶ月〜1年程度が目安です。3件程度の案件を経験すれば、自走できる体制が整います。
小規模なM&Aでも内製化のメリットはありますか?
あります。特に1〜5億円規模の案件では、外部FAに支払う最低報酬(500万〜1,000万円)の比率が高くなるため、内製化によるコスト削減効果が大きくなります。
まとめ
M&A内製化は、単なるコスト削減策ではなく、M&Aを企業の成長エンジンとして機能させるための戦略的な取り組みです。
外部委託から内製化への移行は一気にやる必要はなく、段階的に進めることが成功の鍵です。最初は外部専門家の力を借りながら、徐々に社内の実行力を高めていきましょう。
NextFin会計事務所では、M&A内製化の構築から実践まで、貴社の社内チームの一員として伴走します。「まずは何から始めればいいか」のご相談から、お気軽にお問い合わせください。